映画にもUnreal Engineを活用できる。活用事例や活用するメリットを解説
2022 07.20
日進月歩の映画業界では、バーチャルプロダクションが新潮流。映像表現の進化を推進しているツールの一つが、ゲームエンジン「Unreal Engine」です。大型LEDディスプレイに映し出す3DCG世界の中にカメラを持ち込んで撮影するという画期的な手法にも、Unreal Engineが用いられています。3Dゲーム制作向けに開発されたゲームエンジンが、なぜ映画業界で活躍しているのでしょうか。活用事例やメリットを取り上げてみます。
目次
- Unreal Engineとは
- 映画製作にUnreal Engineを使用するメリット
- レンダリングが即時的に
- さまざまなメディア・デバイスとの相性がよい
- プログラミングによる拡張がしやすい
- コミュニティやマーケットの資産が多い
- マーケットプレイスの多彩なアセットを利用できる
- Unreal Engineを映画製作に活用した事例
- 「パラサイト 半地下の家族」
- 「シン・ウルトラファイト」
- Unreal Engineで映画製作する手順
- 演出を考える
- オブジェクトの配置
- Sequencerの準備
- カメラワーク
- カメラエフェクトの設定
- 各カットの連結
- 映像の書き出し
- Unreal Engineは映画業界でも注目!今後ますます目が離せない
Unreal Engineとは
Unreal Engineとは、3Dゲーム制作向けに開発されたゲームエンジンです。1998年にUnreal Engine1が誕生し、2022年にフルバージョンがローンチされたUnreal Engine5が最新版となっています。アップグレードを重ねるごとに非ゲーム分野で活用できる機能が拡張され、今では映像や建築、医療など幅広い分野で活用が進んでいます。無償で提供されており、安易かつ安価にハイクオリティな3DCG映像を創出できます。
映画製作にUnreal Engineを使用するメリット
Unreal Engineが映画製作ツールとして重視されている最大の理由は、実写と見まごうほどフォトリアルなグラフィック性能にあります。実写×3DCGや、アニメーション×3DCGなどハイブリッドな製作手法も可能。また、撮影前に3DCG空間でプリヴィズを行ってイメージを明確化し、セットの作り直しや撮り直しのリスクを回避するケースもあります。効率性・完成度の双方を高める目的で、Unreal Engineが活用されています。
レンダリングが即時的に
Unreal Engineは、デジタルデータから映像を生成するレンダリングの工程に革命をもたらしました。旧来の3DCG製作の場合、修正が発生するたびレンダリングに膨大な時間を要していましたが、Unreal Engineのリアルタイムレンダリング機能はこのタイムロスをなくしたのです。繰り返し修正を加えられるため、作品の完成度を高めることができます。
さまざまなメディア・デバイスとの相性がよい
Unreal Engineはさまざまなソフトと連携を図り、素材を組み合わせて映像コンテンツに書き出すことができます。BlenderやCinema4Dといった統合型3DCGソフトからモーショングラフィックスをインポートしたり、Unreal Engineからほかのアプリケーションで使用できる形式にエクスポートしたりと、シームレスなプラットフォームとして活用が可能です。
プログラミングによる拡張がしやすい
Unreal Engineは、プラグインを使用して拡張できるよう設計されています。各々のニーズに応じてエンジンの機能性を容易に変更できるという柔軟性が、こだわりを追求するユーザーに受け入れられています。
コミュニティやマーケットの資産が多い
公式サイトで詳細なチュートリアルが公開されているほか、YouTubeチャンネル「Unreal Engine JP」にも解説動画がアップされています。公式のコミュニティでもユーザーが互いをサポートする土壌が育まれており、情報収集や学習のリソースが充実しています。また、マーケットの資産の多さも大きな魅力です。
(参考:Unreal Engine公式サイト)
マーケットプレイスの多彩なアセットを利用できる
公式ストア「UEマーケットプレイス」や「Megascans」のライブラリには、ハリウッドでも使われている高品質アセットがずらり。高精細なアセットを駆使してバーチャルワールドを創り上げることができます。
(参考:UEマーケットプレイス)
(参考:Megascans)
Unreal Engineを映画製作に活用した事例
Unreal Engineは、CG映画はもちろん実写映画の製作にも活用されています。作品事例をご紹介しましょう。
「パラサイト 半地下の家族」
非英語作品で史上初のアカデミー作品賞受賞という快挙に続き、カンヌ映画祭でもパルムドール賞に輝いた作品です。ディテールにこだわるポン・ジュノ監督は、プリヴィズ作成にUnreal Engineを導入し、カメラアングルやセットの配置、登場人物の動きまで徹底検証。3DCGはSFやアクション映画のためのもの、という概念を覆しました。
「シン・ウルトラファイト」
1970年から1971年にかけて放映された怪獣番組「ウルトラファイト」を復活させた2022年の作品。一部、DCCツールを用いたものの、大部分をUnreal Engine上で完成させました。製作を依頼されたスタジオブロス代表の金子氏は、Unreal Engine導入のメリットについて、「あらゆる工程が高速化される」と語っています。
Unreal Engineで映画製作する手順
Unreal Engineを導入している現場では、どのようなワークフローに沿って製作が行われているのでしょうか。大枠を解説します。
演出を考える
企画・立案ののち、絵コンテなどを用いて構成の組み立てや演出の検討が行われます。初めから3Dで作業するのではなく、絵コンテやビデオコンテの作成からスタートするのが一般的です。ビデオコンテをUnreal Engineに取り込んで3Dへ置き換えていけば、徐々にプリヴィズが形になっていきます。
オブジェクトの配置
UEマーケットプレイスやMegascansのライブラリから、必要なアセットを入手します。ブループリントという機能のおかげで、プログラミングの知識が浅くても、アセットの配置や変更、削除といった作業が比較的容易に行えます。
Sequencerの準備
映像製作を行うには、シネマティックスツールセット「Sequencer」が必要です。ブループリントと連携することによって、アクタやカメラ、プロパティなどをタイムラインに沿って制御することができます。Sequencerを開くには、「Cinematics」から「Add Level Sequence」を選択します。
カメラワーク
新たに作成したSequencerファイルのタイムライン上にカメラを追加するには、カメラアイコンをクリックするだけでOKです。タイムラインの秒数設定とカメラの位置調整、Transformへのキー入力によって、カメラを動かすことができます。
カメラエフェクトの設定
カメラエフェクトを設定します。Sequencerウィンドウの+Trackタブからさまざまな操作が可能です。たとえば、徐々に暗転しながらカットを終了するフェードトラックや、スローモーションに切り替えるプレイレイトトラックなど。全機能の把握は困難なほどマルチファンクショナルですが、習熟度に応じて表現の幅が広がります。
各カットの連結
+TrackのShotsトラック上で、複数のシーンを連結します。タイムライン上に各カットをドラッグ&ドロップすることで落とし込みが可能です。リアルタイムで映像を確認しながら編集できるのは、Unreal Engineならではの強みです。
映像の書き出し
最後にムービー出力の設定を行います。Sequencer内のRender Movieオプションをクリックするとセッティングウィンドウが開くので、フォーマットや解像度、出力ディレクトリなどを入力。ムービーキャプチャをクリックすれば出力処理がスタートし、完了すると「Capture Finished (キャプチャ完了)」が表示されます。
Unreal Engineは映画業界でも注目!今後ますます目が離せない
これまで、映画作品にこだわりを貫きたくても予算やスケジュールの制約で叶わなかったという制作者に、Unreal Engineは壁を突破する最適解を与えてきました。映画業界が認めたディスラプターは、未だ進化を続けています。映画製作を再構築するツールの一つ、Unreal Engineから今後も目が離せません。